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福岡地方裁判所 平成6年(わ)1378号 判決

本籍

福岡市中央区大宮一丁目四号六番地

住居

同市早良区城西二丁目一一番三八号

会社役員(元税理士)

日髙紹子

昭和九年一月二日生

本籍

福岡市中央区大宮一丁目四号六番地

住居

同市早良区城西二丁目一一番三八号

会社役員

日髙康裕

昭和五年一一月二五日生

主文

1  被告人日髙紹子を罰金一二〇〇万円に、被告人日髙康裕を懲役一年に処する。

2  被告人日髙紹子において1の罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間被告人日髙紹子を労役場に留置する。

3  被告人日髙康裕に対し、この裁判確定の日から三年間1の懲役刑の執行を猶予する。

理由

(犯罪事実)

被告人日髙紹子は、福岡市中央区白金二丁目一四番二二号において、日髙紹子税理士事務所の名称で税理士業を営んでいたもの、被告人日髙康裕は、被告人日髙紹子の夫で同事務所の所長としてその業務の全般を掌理していたものであるが、被告人日髙康裕は、被告人日髙紹子の業務に関し、被告人日髙紹子の所得税を免れようと企て、右事務所における収入金の一部を除外して簿外預金を蓄積するなどの方法により所得を秘匿した上、

第一  平成二年分の実際総所得金額が五九三六万九七五円であったにもかかわらず、平成三年三月一三日、福岡市早良区百道一丁目五番二二号に所在する所轄の西福岡税務署において、同税務署長に対し、平成二年分の総所得金額が一八九九万六九六円で、これに対する所得税額が源泉徴収税額を控除すると二八万八四〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(平成七年押第四七号の1)を提出し、もって、不正の行為により、平成二年分の正規の所得税額一六七七万八〇〇〇円と右の申告税額との差額一六四八万九六〇〇円を免れた。

第二  平成三年分の実際総所得金額が六二四七万八七七円であったにもかかわらず、平成四年三月一三日、前記西福岡税務署において、同税務署長に対し、平成三年分の総所得金額が一九六六万一三三〇円で、これに対する所得税額が源泉徴収税額を控除すると二四万四〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の2)を提出し、もって、不正の行為により、平成三年分の正規の所得税額一七六四万八三〇〇円と右の申告税額との差額一七四〇万四三〇〇円を免れた。

第三  平成四年分の実際総所得金額が五四九三万五一五六円であったにもかかわらず、平成五年三月九日、前記西福岡税務署において、同税務署長に対し、平成四年分の総所得金額が一九八三万八二六八円で、これに対する所得税額が源泉徴収税額を控除すると二万九四〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の3)を提出し、もって、不正の行為により、平成四年分の正規の所得税額一三三六万七四〇〇円と右の申告税額との差額一三三三万八〇〇〇円を免れた

ものである。

(証拠の標目(括弧内の甲、乙の別及び番号は検察官の証拠請求番号を示す。))

判示全部の事実について

一  被告人日髙紹子、同日髙康裕の公判供述

一  被告人日髙紹子(乙1ないし4)、同日髙康裕(乙5ないし9)の検察官調書

一  髙田奈津江の検察官調書(甲30ないし33)

一  査察官調査書類(甲1ないし15)、査察官報告書(甲16)

判示第一の事実について

一  脱税額計算書(甲20)

一  所得税確定申告書(平成七年押第四七号の1・甲17)

判示第二の事実について

一  脱税額計算書類(甲21)

一  所得税確定申告書(平成七年押第四七号の2・甲18)

判示第三の事実について

一  脱税額計算書(甲22)

一  所得税確定申告書(平成七年押第四七号の3・甲19)

(法令の適用)

一  被告人日髙紹子

罰条

判示第一ないし第三につきいずれも所得税法二四四条一項、二三八条一項

併合罪加重 刑法四五条前段、四八条二項

労役場留置 刑法一八条

二  被告人日髙康裕

罰条

判示第一ないし第三につきいずれも所得税法二三八条一項

刑種の選択 判示第一ないし第三につきいずれも懲役刑を選択

併合罪加重 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重)

執行猶予 刑法二五条一項

(量刑の理由)

一  被告人日髙康裕(以下「康裕」という。)は、亡父の経営していた税務会計事務所で働き、その後、被告人康裕の妻であり税理士となった被告人日髙紹子(以下「紹子」という。)が引き継いだ日髙紹子税理士事務所(以下「日髙事務所」という。)の所長であった。被告人康裕は、被告人紹子が実質的には税理士業務を行っていなかったこともあり、日髙事務所の所長として実質的にその事務の全般を管理掌握していたところ、判示の罪はいずれも、被告人康裕が、被告人紹子に帰属する所得について、日髙事務所の経理担当の事務員に各年度の所得を二〇〇万円以下になるよう操作して確定申告を行うよう指示するなどして、平成二年から同四年の三年間で被告人紹子の所得を合計一億一八〇〇万円余り秘匿し、この間合計四七〇〇万円余りに上る所得税を免れていたというものである。

二  被告人康裕は、前記のとおりの方法で、被告人紹子の所得を秘匿し、三年分連続して計画的、継続的に脱税を行ったものであること、ほ脱率が各年分いずれも九八パーセントを超える高率で、ほ脱額も合計四七〇〇万円余りと少なくない額に上るものである。被告人康裕は、税理士事務所における事務を実質的に統括していたもので、被告人康裕による本件脱税は、納税義務の適正な実現を図ることを使命とす税理士の業務に対する社会的信用、信頼を著しく損なうものであり、脱税行為は申告納税制度を採用している我が国の税制の根幹を揺るがしかねない悪質な行為である。また被告人康裕は、日髙事務所の経営が順調になり所得が増えるにつれ、累進課税税制の下では、税金を納めるために働くのは馬鹿らしいと思うとともに、蓄財のために、脱税をするようになったものであり、利己的な本件犯行の動機に酌量の余地はない。そうすると、被告人康裕の刑事責任は重い。

三  被告人紹子は、日髙事務所の代表者たる税理士であったにもかかわらず、自分の所得について、被告人康裕が脱税しいてることを知りながらこれを放置してきたのであるから、申告納税制度の理念を実現すべき税理士の使命を自ら裏切ったものと言わざるを得ず、その刑事責任も重いと言わなければならない。

四  他方、被告人紹子は、本件脱税については、元々反対の意見であったが、妻の身として夫である被告人康裕を止めることが困難であったという家庭事情が窺われること、本件脱税を深く反省し、判示の三年間の所得について修正申告を行い、本税、延滞税、重加算税の全額を納付済みである上、既に税理士登録を自ら抹消している。また、被告人康裕も本件脱税を反省し、日髙事務所の所長を退いている。そして、被告人両名は、今後は、有限会社の役員として、税理士である被告人らの長男が中心となり経営される税理士事務所の業務を監督し、被告人らはもちろん、右長男らにも二度と過ちを犯さないようにしていきたいと誓っている。

これら被告に両名にとって酌むべき事情を考慮の上、主文のとおりの刑を量定した。

(検察官西村尚芳、弁護人森統一)

(求刑:被告人日髙紹子につき罰金一五〇〇万円、被告人日髙康裕につき懲役一年)

(裁判長裁判官 陶山博生 裁判官 鈴木浩美 裁判官 千葉俊之)

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